S P E C I A L
TRUMPシリーズTVアニメ『デリコズ・ナーサリー』
完結記念・原作・シリーズ構成・脚本:末満健一
オフシャルインタビュー(ネタバレ有)
完結記念・原作・シリーズ構成・脚本:末満健一
オフシャルインタビュー(ネタバレ有)
遂に最終話を迎えたTRUMPシリーズTVアニメ『デリコズ・ナーサリー』。
2009年に大阪の小劇場で産声を上げ、いまや累計動員数13万人超の人気コンテンツとなった『TRUMPシリーズ』の新展開として制作された本作は、一体どのようにして誕生したのか。
完成までの軌跡や放送開始しての想いを、原作・シリーズ構成・脚本の末満健一さんに“ネタバレあり”でうかがいました。
2009年に大阪の小劇場で産声を上げ、いまや累計動員数13万人超の人気コンテンツとなった『TRUMPシリーズ』の新展開として制作された本作は、一体どのようにして誕生したのか。
完成までの軌跡や放送開始しての想いを、原作・シリーズ構成・脚本の末満健一さんに“ネタバレあり”でうかがいました。
ライター:中川實穗
『グランギニョル』が発端となって生まれた企画
- ――末満さんの中で『デリコズ・ナーサリー』の構想はいつ頃からあったものですか?
-
もしやるのなら既存の舞台作品を原作にするのではなく、完全新作にして、アニメじゃないとできないことができたらおもしろいなと思いました。
そこから、『グランギニョル』後のダリはどんなふうに過ごしていくんだろう、遺された2人の子供をどう育てていくんだろう、まともな子育てにはならないだろうな……というところから考え始めていって。
2018年の終わりにはプロット(あらすじ)が出来ていました。
- ――『グランギニョル』の翌年にはもうプロットができていたんですね。アニメ化の企画も同時に動き出していたということですか?
-
アニプレックスさんには『グランギニョル』の直後くらいにお声がけいただいたと思います。
そこからJ.C.STAFFさんが制作をしてくださることに決まって、僕はプロットを脚本にして、それをもとに錦織(博)監督とプロデューサーとディスカッションをしながら推敲したのが2021年後半くらい。
アフレコは去年中に録り終わっていました。
- ――そんなに前に?
-
僕はアニメの脚本を手掛けるのは2作目で、1作目は『ボールルームへようこそ』(2017年)という漫画原作の作品だったので、その時とはスピード感も汲み上げ方も全く違いました。
『デリコズ・ナーサリー』は『TRUMPシリーズ』という冠はあるけれど原作がないものなので、こうやって時間をかけていただいたのはすごく助かりました。
- ――ちなみにダリの話にしたのはどうしてだったのですか?
-
そこは『グランギニョル』からアニメの話につながっていったので、悩むこともなくスッとそうなりました。
タイトルもその時から『デリコズ・ナーサリー』でしたし。
当時、素知らぬふりで構想を妄想としてツイートしてみたりはしましたけどね(笑)。
お客さんの反応を見てみたかったので。
そしたらお客さんも見たがってくれたので、やっぱり『デリコズ・ナーサリー』でいってみたいなと思いました。
- ――原作・シリーズ構成・脚本という立場で、脚本以外だとどんな関わり方をされましたか?
-
世界観の監修もさせていただきました。
これはコミック版(『TRUMP』『COCOON』原作・末満健一/漫画・はまぐり)でもよく議題にあがることなのですが、例えば吸血種の食事とか。
本当は血を吸うのがヴァンパイアらしいんでしょうけど、シリーズを重ねていくうえで設定が積み重なって、吸血種は“血液性食材”というものを食べていることになっている。
その“血液性食材”ってなんですか?というところですよね。
舞台だと台詞で言えば済むことなのですが、アニメだと絵になっちゃうので、『ブラッドチェリーという食べ物があって、それは果汁が血で』みたいな詳細をつくったり。
食べ物の色味は全体的に赤色にしてくださいとお願いしたり。
実際に絵として描かれるわけではないことも含め、監督とディスカッションもしたりしながら、絵として表現するために必要な設定を細かくつくりあげていきました。
- ――舞台『TRUMPシリーズ』を拝見してきたので、背景が具体的に描かれるのもおもしろかったです。ダリはこういう街に住んでいるんだな、とか。
-
アニメでは後半に出てくるクラン(繭期の少年少女が入るギムナジウム)も、舞台だとひとつのセットでクラン内のいろんな場所を表現してきたんですけれど、アニメやコミック版だとそうはいかない。
クランの図書室はどこにありますか、剣術試合はどこでやられていますか、寮はどこにありますか、みたいな。
場合によっては位置関係も重要になってくるので、全体のマップを作ったりしました。これはまずコミック版用に作ったものをアニメと共有して、でもそのままやると作画コストがすごいことになってしまうマップだったので(笑)、アニメ用に少しアレンジしていただいたりしました。
シリーズを知っている方、初めて知る方、両方が楽しめるものに
- ――『TRUMPシリーズ』に初めて触れる方とシリーズのファンの方、それぞれの存在はどんなふうに意識されましたか?
-
両方が楽しめるものにしたいと思いました。
ただせっかく舞台シリーズからの流れで生まれる作品なので、他の作品と紐づいている部分もあるほうが試みとしておもしろいんじゃないかなと。
それで、2019年のTRUMPシリーズ10周年に『SPECTER』を再演したんですけど、そのカーテンコールでは、仮面をかぶっているキャラクターが死者、かぶっていないキャラクターが生存者、というふうにしたんですね。
『デリコズ・ナーサリー』に登場するシャド・ジュラスは『SPECTER』で生まれたキャラクターなんですが、舞台の中では生死不明な感じで終わって、カーテンコールでは仮面をつけていない。だからお客さんは『シャドは仮面をつけてないってことは、生き延びているの?』と、そこに疑心暗鬼が生まれる。
その伏線を2019年に張って、ようやく回収しました。伏線回収まで長かったです(笑)
- ――でもずっと気になっていた人もいるでしょうね。
-
もちろん『SPECTER』を観ていなくてもわかるように回想シーンで必要最低限の情報は描いていますが、アニメから入った方が舞台にも興味を持ってくださったらなとも思います。
- ――舞台シリーズを見たことのない方は、舞台では何が描かれているのかと怯えていました。
-
『デリコズ・ナーサリー』は割と平和に終わりますしね。
11月に出版された短編小説集『デリコズ・ナーサリー -Innocent Waltz-』(著:Writing Team永遠書簡/総監督 末満健一)も読んだうえで舞台シリーズを観ていただけると、また違ったキャラクターの見え方が待ち受けているかもしれないですね。
- ――(笑)。アニメの放送期間に上演された舞台『マリオネットホテル』も割とやさしい世界だという印象でした。他のダリが登場する作品は粒ぞろいです。
-
『TRUMPシリーズ』はどこから入ったかで見え方が180度違ったりする場合もあって、アニメがきっかけで『マリオネットホテル』を観てくださった方には、この話がハッピーエンドに見えていたらいいなと思っていました。
ダリの話で言えば、『グランギニョル』を観て、『デリコズ・ナーサリー』を観て、『TRUMP』を観るっていうのが一番いい流れだと考えています。
あとは『COCOON 月の翳り星ひとつ』もダリの物語という一面がありますね。
錦織博監督はお任せできる方だと感じた
- ――脚本の話をもう少しうかがいたいのですが、監督やプロデューサーとのディスカッションとはどんなものだったのですか?
-
演劇だと会話だけで場面が持つのですが、アニメではただ会話しているだけでは持たなかったりするので、場面が変わったほうがいいよねとか、演劇でいう長台詞ですが、一人のキャラクターが長く喋るというのもアニメでは難しいところがあるので、一つひとつの台詞が短いほうがいいとか、そういうところを話して修正していきました。
おそらく基本的なことなんでしょうけど、たしかになと思いました。
だから第1話が一番改稿して4稿(最初の原稿から3回修正したもの)くらいまで書きましたね。
後半はそんなに大きな直しはなかったと思います。
- ――錦織監督とはどんな関係でしたか?
-
脚本会議は複数人でするので意見が割れることもあるのですが、そういう時に監督が僕の意見に寄り添ってくださったのもやりやすかった要因のひとつです。
きっと原作者である僕を尊重してくださったのだと思うのですが、こちらのやりたいことや世界観をすごく汲み取ってくださっているんだなと感じて、それがありがたくて。
やり取りの中で早々にお任せできる方だと感じていたので、なにかを判断しなくちゃいけない時に『監督にお任せします』ということも多かったです。
- ――キャラクターのデザインも素敵でしたね。
-
キャラクターのデザインは脚本ができるよりもっと前に決まっていたのでだいぶ前なんですけれど、その時にキャラクター原案の荒野さんが描いてくださったデザイン案を僕はいまも仕事場に飾っています。
荒野さんの原案と実際のアニメでは、デザインが少し違うんですよね。
一枚絵とアニメとして動かすための絵としての違いです。
そこをキャラクターデザインの伊東葉子さんが手がけてくださいました。
荒野さんの一枚絵の魅力を損なわずにちゃんとアニメの絵になっている。
荒野さんと伊東さん、それぞれのプロの技に感動しました。
- ――コミック版と違うクリエイターが手がけるのが『TRUMPシリーズ』らしさだなと思いました。
-
そうですね。
僕ももともとコミックはコミック、アニメはアニメ、演劇は演劇でいいと思っています。
でもコミック版の作者のはまぐり先生もこのシリーズが漫画やアニメなどいろんな展開をしているのをおもしろがってくださっていました。
アニメでダリたちのコスチュームをデザインする時に血盟議会の紋章が必要になって、それは荒野さんが考えてくださったんですけど、コミック版で紋章の描写が必要になった時にアニメサイドに許可をいただいてコミック版にも輸入しました。あとはコミック版『COCOON』で幼少時のラファエロの回想シーンが入るときに、アニメのキャラクターデザインを彷彿とさせるルックだったりもしていますね。
こちらが指定したものではなかったので、はまぐり先生の遊び心ある計らいだと思います。
- ――すごくおもしろいつながり方ですね。ちなみにキャラクターデザインに関して末満さんはなにか希望を出されたのですか?
-
ディーノだけ細かく言わせていただいたと思います。
細かくというか……猫背の感じをしつこく注文しましたね(笑)。
あとはラファエロをロングヘアーにしたいっていうのと、ウルとアンジェリコの髪と瞳の色についてはリクエストを出しました。
猫背には特にこだわりましたけど(笑)、ほとんどのキャラクターデザインはすんなり決まったと記憶しています。
『TRUMPシリーズ』の世界観をつないだ和田俊輔氏の音楽
- ――他のスタッフはアニメの世界の方ばかりですが、音楽だけは舞台シリーズに長年関わっている和田俊輔さんだったのはどうしてですか?
-
これは少し話が長くなるんですけど、(和田氏とは)同じような時期に大阪から東京に出てきて、たまに会えば自分の夢とか目標を語ったりしていたんです。
その中で、仕事が広がったり大きくなったりする時に『君も連れて行くからね』というようなことを偉そうに言っていたんですよ、昔(笑)。
言葉は違いますけど、大体そんな感じの意味のことを。
それで、今回地上波でアニメーションを流してもらえることになったのでその約束を果たそうと思った、というのはひとつあります。
あとは、もちろん僕もアニメの劇伴作曲家さんで好きな方はいっぱいいるのですが、やっぱり『TRUMPシリーズ』は、初演の『TRUMP』と『SPECTER』を除いてすべての音楽を和田さんに作ってきてもらってきたので。
その世界観をアニメとつなげるという意味でも、和田さんにやってもらうのが最善だなというところが大きかったです。
- ――舞台の音楽を作る時は末満さんと和田さんががっぷり四つでやられているイメージですが、今回もそうでしたか?
-
いえ、作曲に関してはまったくです。
舞台で流した音楽を何曲か『デリコズ・ナーサリー』バージョンで作り直してもらったのでそこは話しましたけど、それ以外は錦織監督と音響監督の濱野さんへお任せしていました。
だから音源をいただいた時に『こんなにたくさん曲書いたんだ』と思ったくらい。
最初に聴いたのが(舞台でもヴォーカルも担当している)新良エツ子さんのヴォーカルの曲で、「ああ、こういう音楽で『デリコズ・ナーサリー』をやるんだ」という感動もありました。
- ――それは熱いですね。
-
サントラ集に和田さんのライナーノーツが載ると聞いたので、それを読むのが楽しみです。
彼とはもう13年ほど一緒にやっていますけど、『マリオネットホテル』でもまた違う引き出しの曲を作ってくれましたし、まだまだお互いやれるなと無言で確認し合った感じでした。
5年前に仕込んだ伏線が回収される第8話でやっと実感が伴いそう
- ――末満さんがアフレコに立ち会って、なにか印象的なことはありましたか?
-
話数によってはまだ完成していない映像の状態でアフレコをすることもありました。
まだちゃんとした絵がない状態なのに声優さんの汲み取り能力がすごくて。
立ち会っていた初回は、『もうちょっとこういうニュアンスで』みたいなことを声優さんにお伝えしたんですけど、それで演技がガラッと変わるのも目の当たりにして、こんな速さで声優さんたちは役を理解していくんだとびっくりしました。
普段なかなか見られないものなので、とても興味深かったです。
監督がキャストの方に『こうしてほしい』と話しているのも横耳で聞いていたのですが、それを聞いて収録も監督にお任せできるなと思ったので、1話の次に立ち合いに行ったのは最終話でしたね。
- ――現場で声優さんに何か質問されましたか?
-
“ラファエロ”のイントネーションのことは聞かれましたね。通常だとイントネーションは“ラ”にアクセントがくるんですよ。
でも『TRUMP』初演の時に、まさかこんなことになるとは思っていなかったので(笑)。
今さら本来のイントネーションに戻せなくて、舞台用のイントネーションでお願いしますと言ったりしました」 (スタッフ「1話を収録する時、キャストの皆様には先入観を入れないように、舞台の映像をマストで観てきてもらうということはしていなかったので、ゲルハルト役の小西克幸さんが「なんで僕はダリの奥さんを殺したんですか」と質問してくださって、末満さんがダミアン・ストーンの話から説明していましたよ」)「(笑)。
やっぱり『繭期』とかも劇中で説明する台詞はあるんですけど、いきなりは理解が難しかったりしますからね。
- ――完成した第1話を見た時はどうでしたか?
-
本当にアニメになっているなっていう。
やっぱり演劇とは畑も違いますし、『TRUMPシリーズ』を本当にアニメにしてもらえるのかなって半ば現実味がないまま進んでいっていたので。
なんなら未だに狐につままれた気分です。いつ実感が伴うんだろう。
最終回かな。第1話は導入で世界観を説明して、第2話で話が動き始めて。
折り返し地点で大きな出来事が起きて、第8話で『SPECTER』の伏線を回収して、みたいな、自分の中で各話に『この話にはこういう狙いがある』というのがあったので、毎話毎話で『導火線がここまで届いた』『今回はここまで届いた』みたいな感覚があります。
5年前に仕込んだ伏線が回収される第8話でやっと実感が伴うかもしれないですね。
最終話の大人になった子供たちのシーンについても視聴者のみなさんの反応を見るのが今からすごく楽しみです。
- ――最終話まで拝見したんですけど、前半で泣いてしまいました。末満さんに恨みすら感じるような映像を見せられて……。
-
(笑)。でもあれは一応、舞台から応援してくださっているお客さんに対するプレゼントのつもりで書いたんです。
『デリコズ・ナーサリー』だけ見ている方にはすごく幸福なシーンに見えたらいいなと思います。
- ――どうしてこういう構成をされたのですか?
-
この作品はシリーズを知っている視聴者と知らない視聴者がSNSで混ざっていくだろうなと思ったので、そのトリガーとなる出来事をいくつかポイントとなるところで仕込んでいきたいなと思いました。
それによってシリーズを知っている人と知らない人が違った反応で盛り上がってくれたらいいなと。
だから僕も本当に視聴者のみなさんの反応が楽しみです。
- ――舞台を観た者からすると、アニメでは一切触れられませんでしたが、ゲルハルトとアンジェリコの『グランギニョル』でのエピソードは時々頭に浮かびました。
-
それで言うとゲルハルトだけは、このナーサリーが終わったら元に戻っちゃうんです、僕の中では。あの場所、あの環境、あの状況がかすがいになっていて、アンジェリコとちょっとずつ距離が縮まるんだけど、生活が元に戻ればそれも戻っちゃう。
僕もよく言われるんですよ、飲みに行って仲良くなったと思っても次に会った時にリセットされますよねって。
あんなに和気藹々としていたのに、あれ……?って(笑)。
そういう自分の性質をヒントに、ゲルハルトもリセットされるだろうなと。
『グランギニョル』を観た方はわかると思うんですが、やっぱりアンジェリコに対するどう接していいのかわからない気持ちはずっと足かせになっているんですね。
- ――やはりそうなるのですか……。
-
見捨てずに育てようとしていますけどね。
『デリコズ・ナーサリー』でちょっと距離が縮まるし、スピンオフ小説『デリコズ・ナーサリー -Innocent Waltz-』でも距離が縮まるエピソードがあるんですけれど、終わったらリセットされます。
そういうことはあるんです、僕の実体験ですから。
- ――(笑)。『グランギニョル』繋がりで言うと、ダリがフリーダと夢の中で再会しているシーンも素敵でした。
-
この作品でフリーダはあんまり出てきませんが、あそこをすごく丁寧に描いてくださっていたのは僕も嬉しかったです。
- ――最終話もですけど、ダリは飄々としているから夢の中のシーンが美しくて切ないです。
-
そうですね。
夢の中で本音がこぼれる。
絶対本音で語らないようなキャラクターなので、本当の心情みたいなところがああいうカタチで描かれて、すごくきれいなアニメーションで見られたなと思います。
- ――キキが出てきたのもおもしろかったです。
-
キキの結末的なものは、以前出した短篇小説集『Pendulum
-ペンデュラム-』の中で描かれるんですけど、舞台『グランギニョル』で逃走したあとからそれまでのことはこれまで出てきていなかったので、その間の出来事として登場してもらいました。
キキみたいなキャラクターがいないとナーサリーがペンデュラムのアジトにうつった時に子供たちの味方がいなくなりますからね。
キキなら子供たちの味方になれるな、と。
- ――キキは最終的にミュージカル『マリーゴールド』まで続いていく存在ですしね。
-
『マリーゴールド』はアニメの内容とは関係ないんですけど、台詞としてちょっと入れてみたんですよ。
それがまさかオープニングにも反映されているとはと思いませんでした(笑)
- ――余談ですが、『TRUMPシリーズ』の登場人物の多くには画家の名前がつけられていますが、それはどうしてだったのですか?
-
『TRUMP』で最初につけた名前が“ソフィ”と“ウル”なんですけど、つけた時にはなんとなく語感で決めたものだったんです。
それで後からなにか共通点はないかなと思って調べたら、それぞれの名前の画家がいたんですよ。
- ――へえ! 名前が先にあって調べてみたら画家がいたってことですか?
-
そうです。
じゃあ他のキャラクターも画家の名前から引用しようって、そこからですね。
『LILIUM-リリウム 少女純潔歌劇-』の時はタイトルも含めて花の名前にしようという流れでした。
その後、シリーズを何作も作るとは当時は思ってもいなかったので、『LILIUM』は単純に『TRUMP』との差別化で画家以外からの引用にしようとしたんです。
それで『TRUMP』の文脈のキャラクターは画家の名前から、『LILIUM』 の文脈のキャラクターは花の名前からとったものが多くなっています。
『TRUMPシリーズ』の枠を大きく広げてもらった
- ――アニメ『デリコズ・ナーサリー』は、『TRUMPシリーズ』にとってどんな存在になりましたか?
-
『TRUMP』は小劇場で初演し、ハロー!プロジェクトに所属するアイドルのみなさんと『LILIUM -リリウム
少女純潔歌劇-』をやらせてもらったり、D2や劇団Patchというグループでやらせてもらったり、NAPPOS
UNITED版があったり、自分としてはあちこちで枠にとらわれずにやらせてもらっているなという感覚があるんですね。
その枠組みを越境している感覚がおもしろいなと。
コミック版に関しても、舞台のコミカライズではなくコミック版というまた別の『TRUMP』『COCOON』だし、短篇小説をパンフレットに収録したり、戯曲集や小説を出させていただいたり、音楽朗読劇『黑世界~リリーの永遠記憶探訪記、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について~』ではいろいろな作家さんに脚本を書いてもらったりして。
今回アニメという特別な媒体でやらせていただいて、枠をまた大きく広げてもらったなと思っています。『TRUMPシリーズ』という場所でいろんなことができたらいいなと思っているので、そのひとつとしてすごくいいカタチで実現させてもらえたことが嬉しいです。
これまで『TRUMPシリーズ』のトの字も知らなかったような方に観ていただけているということを感じますし、海外の方も熱い感想を寄せてくれていると聞くと、アニメのリーチの長さを実感します。
すごくありがたいことでした。
- ――『TRUMPシリーズ』はここからどうなっていきますか?
-
演劇でノンバーバルでもやってみたいし、ダンス公演とかファミリーミュージカルとか、人形劇とかもやってみたいです。
あと海外で実写ドラマ化したいなとかも思います。
やっぱりなんでも口に出すことは大事だなと思うんですよね。『TRUMPシリーズ』が始まった15年前から『漫画になったらいいな』『アニメになったらいな』と言ってきて、こうやって実現させてもらえたので。
実写化もどこか……ドイツかどこかのスタジオでやるには……知り合いいないですか?
- ――いないです(笑)。アニメでも舞台でも、ダリがたくさん見られた2024年でしたね。
- ダリの話は一旦ここまでかなと思っていますが、いつかダリの亡くなる話とかもやりたい想いはあって、それは染谷(俊之)くんがもうちょっと年齢を重ねたら実現させたいですね。
- ――ダリはもともと末満さんが演じた役でもありますけどね。
-
あの時はこんな重要キャラになるとは思いもよらず(笑)、当時のTHE小劇場あるあるの、演出家がただちょろっと出てふざけていただけのキャラクターだったんです。
あの時から考えると、ダリというキャラクターがとても重要なものとなりました。
染谷くんのおかげですね。
ダリがキャラクターとして広がっていったように、『TRUMPシリーズ』自体もここからまたおもしろく広げていけたらいいなと思います。